防災学習アーカイブ いちばん大事な章

被災時に最も見落とされている事実

「災害関連死」が直接死を上回ります。
熊本地震では直接死約50人に対し、関連死は200人を超えました。

つまり——

揺れや水そのものより、
「生き延びた後の数日〜数週間」で人が亡くなっている。

そしてその原因の多くは、知っていれば防げたものです。

時間の経過と、困りごとの主役の交代

被災地で「いちばん困ること」は、時間とともに入れ替わります。 つまみを動かすと、その時期に何が起きているかが分かります。

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発災 〜 数時間 暗い・分からない・動けない
起きること
  • 停電で何も見えない。夜間なら足元も確認できない
  • 電話がつながらず、家族の安否が分からない
  • 割れたガラス・倒れた家具でけがをする
  • 停電が復旧した瞬間、倒れた電気製品から出火する(通電火災)
この時期にやること
  • 明かりを確保する(懐中電灯。スマホは電池を温存)
  • 足を守る(スリッパではなく靴。ガラスは靴底を貫く)
  • 避難する前にブレーカーを落とす
すべての時期を一覧で見る
発災 〜 数時間
暗い・分からない・動けない
  • 停電で何も見えない。夜間なら足元も確認できない
  • 電話がつながらず、家族の安否が分からない
  • 割れたガラス・倒れた家具でけがをする
  • 停電が復旧した瞬間、倒れた電気製品から出火する(通電火災)
1日 〜 3日
トイレ・水・寒暖
  • トイレが使えない。ここが最大の困りごとになる
  • 断水。水が出ても下水が壊れていれば流してはいけない
  • 冬は低体温、夏は熱中症。空調が止まる
  • 在宅避難者に情報も物資も届かない
4日 〜 1週間
衛生・不眠・プライバシー
  • ノロウイルス・インフルエンザが避難所で広がる
  • 床で寝ることで埃を吸い、せき・肺炎が出はじめる
  • 歯を磨けず、口の中の細菌が増える
  • 眠れない。仕切りがなく、音と視線が絶えない
2週間 〜 1か月
★災害関連死が最も増える時期
  • エコノミークラス症候群(特に車中泊)
  • 誤嚥性肺炎(口腔ケアができない高齢者)
  • 生活不活発病。動かないうちに歩けなくなる
  • 持病の悪化。薬が切れる、通院できない
  • こころの不調・不眠・飲酒量の増加
1か月 〜
生活再建の手続き
  • り災証明の申請。写真が無いと被害を証明できない
  • 判定(全壊・半壊)で支援額が大きく変わる
  • 保険の請求。修理業者との契約
  • 住まいとローン。仕事と収入

A トイレ

被災地の最大の困りごと。そして最も備えられていない

流してはいけないのに流す
断水しても「バケツで流せる」と思われがち。しかし下水管が壊れていると汚水が逆流し、集合住宅では階下の部屋に噴き出す。マンホールから溢れた例も多い。
携帯トイレの備蓄がほぼゼロ
必要量は1人1日5回 × 3日ぶん=15回分。水や食料は備えていても、トイレを備えている家庭はごく少ない。
我慢して、水分を控えてしまう
結果として脱水・膀胱炎・エコノミークラス症候群を招く。トイレ問題は、そのまま命の問題になる。
避難所のトイレが早い段階で使えなくなる
清掃の担い手が決まらないまま汚れ、誰も使わなくなる。結果、外で用を足すことになり衛生が崩れる。
和式しかない・段差がある
高齢者や障害のある人が使えず、水分を控える方向へ追い込まれる。
★水と食料は3日ぶん備えている人が多いのに、トイレだけが抜け落ちています。携帯トイレは軽くて場所も取りません。今日いちばん買う価値があるものです。

B 通電火災

知識だけで、ほぼ確実に防げる

停電が復旧した瞬間に燃える
倒れた電気ストーブ、傷ついた配線、水に浸かった家電。阪神・淡路大震災では、原因が特定できた火災のうち約6割が電気関係とされている。
誰もいない家で起きる
避難した後に通電して出火するため、発見が遅れて延焼しやすい。
対策は「ブレーカーを落とす」だけ
それでも実行する人は少ない。避難の最後の一手として決めておく
感震ブレーカーという装置がある
揺れを感じると自動で電気を止める。数千円のものからある。不在時や、慌てて忘れた時の保険になる。
★戻る時も注意。水に浸かった家電は、乾いて見えても通電しない。ブレーカーを上げる前に、電気製品のプラグを抜いておく。

C 車中泊と、避難生活の身体

ここで亡くなる人がいちばん多い

エコノミークラス症候群
狭い座席・水分不足・トイレの我慢が重なる。新潟県中越地震や熊本地震では死者が出ている。足を動かす/水を飲む/横になるで防げる。
生活不活発病
動かない生活が続くと、元気だった高齢者が数週間で歩けなくなる。「座っているだけ」が危険。
床で寝ることによる肺炎
床上30cmは埃が舞う。段ボールベッドの設置が遅れると呼吸器の病気が増える。
口腔ケアができず、誤嚥性肺炎
歯を磨けない日が続くと口の中の細菌が増え、肺炎につながる。関連死の代表的な原因。歯ブラシは避難バッグの必需品
★水が無くても口腔ケアはできる。少量の水でゆすぐ、ウェットティッシュで歯を拭く、よく噛んで唾液を出す。これだけで肺炎のリスクは下がる。

D 情報

つながらない・届かない・間違って伝わる

電話がつながらない
回線が混み合う(輻輳)。災害用伝言ダイヤル171があるが、使ったことがある人はほとんどいない。毎月1日・15日などに体験利用ができる。
デマが最も速く広がる
熊本地震の「動物園からライオンが逃げた」は実例。善意の拡散がいちばん速い。出どころを確かめるまで転送しない。
スマホの電池が尽きる
充電できる場所に人が集まる。省電力モード・画面を暗く・使わない時は機内モード。
停電でテレビが見られない
ラジオを持っていない家が多い。車のラジオが使えることに気づかない人も多い。
在宅避難者に情報が届かない
避難所に来ない人は「無事」と見なされ、物資も情報も配られないことがある。避難所へ顔を出して名前を伝えるだけで扱いが変わる。
★171は「練習しておかないと本番で使えない」典型例です。家族で一度、体験利用日に試しておくと確実です。

E 避難所の運営

設備ではなく、人と段取りの問題

名簿がない
誰がいるのか分からず、安否確認も物資の配分もできない。最初にやるべきは名簿づくり
運営が男性中心になる
更衣室・授乳室・生理用品・下着といった配慮が抜け落ちる。運営に女性を入れることが解決の早道。
役割分担が決まらない
炊事や清掃が特定の人(多くは女性)に集中して疲弊する。当番表をつくる。
ペットで揉める
同行避難(一緒に逃げること)と同伴避難(一緒に過ごせること)は別。ここが誤解されているため現場で衝突する。事前に市町村へ確認しておく。
アレルギーのある子が食べられない
炊き出しに原材料の表示がない。表示を書くだけで解決する。
外国人・旅行者が取り残される
難しい日本語が伝わらない。「やさしい日本語」と絵で伝える。
★避難所は「行政が用意してくれる場所」ではなく「住民が運営する場所」です。この認識の差が、暮らしやすさを大きく分けます。

F 配慮が必要な人

命に直結する「時間制限」がある

人工透析
週3回。1回でも欠けると危険。大量の水と電気を使うため、断水すると施設が動かず、広域搬送になることがある。
在宅酸素・人工呼吸器
停電が即座に命に関わる。内蔵バッテリーは数時間しかもたない。停電時の連絡先と搬送先を、事前に決めておく
インスリン
冷蔵保存が必要。停電下でどう保つかを主治医に確認しておく。
お薬手帳
無いと同じ薬が出ない。スマホで撮影しておくだけで解決する。いま撮っておける、最も簡単な備え。
認知症
環境の変化で不穏・徘徊が起きる。避難所に居づらく車中泊へ流れ、そこで体調を崩す流れが多い。
★該当する家族がいる場合、市町村の「避難行動要支援者名簿」への登録を確認してください。登録があると、地域の支援につながりやすくなります。

G 生活再建の手続き

知っているかどうかで、受け取れる支援が大きく変わります

この章は「知らなかったせいで損をする」ことが最も多い領域です。 困りごとと、具体的な解決方法をセットで載せます。
1 片付ける前に、写真を撮っていない
り災証明の判定には被害の証拠が要る。片付けてしまうと、被害があったこと自体を証明できなくなる。最初にやることは、掃除ではなく撮影
→ どうすればよいか
  • 建物の外観を4方向から(前後左右のすべての面)
  • 「引き」と「寄り」の両方を撮る(全体が分かる写真+壊れた部分のアップ)
  • 浸水した高さが分かるように撮る。メジャーや身長と一緒に写すとなお良い
  • 表札・住所が分かるものも1枚(どの家か特定できるように)
  • 部屋ごとの被害、家財(家電・家具)も個別に撮る
  • 撮影日時が残る設定にしておく(スマホなら自動で残る)
2 判定に納得できないが、そういうものだと諦めてしまう
全壊・大規模半壊・中規模半壊・半壊・準半壊で、受けられる支援は大きく変わる。1段階の違いが、数十万〜数百万円の差になる
→ どうすればよいか
  • 再調査(第2次調査)を申請できる。これは正当な権利で、遠慮する必要はない
  • 申請時に、撮影した写真と「どこがどう壊れているか」のメモを添える
  • 床下・基礎・柱の傾きなど、外から見えない被害を伝える
3 通帳・印鑑・保険証を失くしたので、何もできないと思っている
流された・焼けたことを前提に、各機関が特例の対応をする。「無いから無理」はほぼ間違い
→ どうすればよいか
  • 銀行: 通帳・印鑑が無くても、本人確認ができれば払い戻しに応じる特別措置が取られる
  • 健康保険証: 無くても氏名・生年月日・住所を伝えれば受診できる。窓口負担が免除されることもある
  • 運転免許・パスポート: 再交付の手数料が免除される場合がある
  • まず市町村の窓口か、各機関の相談ダイヤルに聞く
4 保険に入っていたが、水害は対象外だと思い込んでいる
水害は火災保険の「水災」補償で扱う。この特約を外していると出ない一方、付けているのに気づかず請求しない人もいる。
→ どうすればよいか
  • いま、証券を見て「水災」が付いているか確認する(被災前にできる唯一の対策)
  • 被災したら、片付ける前に保険会社へ連絡して事故受付をする
  • 写真と、修理業者の見積書を用意する
  • 地震による被害は火災保険では出ない。地震保険が別に必要
5 支援制度があることを知らない・申請期限を過ぎてしまう
被災者向けの制度は申請しないと1円も出ないものばかり。そして多くに期限がある。
→ どうすればよいか
  • 被災者生活再建支援金: 全壊などの場合。基礎支援金+加算支援金で最大300万円が目安(住宅の被害程度と再建方法で変わる)
  • 災害救助法の応急修理制度: 半壊以上で、住み続けるための最低限の修理費を公費で。ただし、これを使うと仮設住宅に入れない場合があるため、順番をよく相談すること
  • 災害弔慰金・災害障害見舞金: 亡くなった方・障害が残った方の遺族等へ
  • 災害援護資金: 生活再建のための貸付
  • 公費解体: 壊れた家の解体費を公費で。申請期限が短いことが多い
  • 税・保険料・公共料金の減免や猶予も申請制
6 家は壊れたのに、住宅ローンだけが残る(二重ローン)
新しい住まいを建てれば、古いローンと新しいローンを二重に背負うことになる。これを避けるための仕組みがある。
→ どうすればよいか
  • 自然災害債務整理ガイドラインという制度がある
  • 一定の条件でローンの減額・免除を受けられる
  • 手続きを支援する弁護士等の費用は無料
  • 信用情報(いわゆるブラックリスト)に登録されないため、将来また借りることができる
  • 取引先の金融機関か、弁護士会の相談窓口へ
7 修理業者と、その場で契約してしまう
被災地には「保険で自己負担ゼロになります」といった勧誘が来る。急がせる相手を信用しないのが原則。
→ どうすればよいか
  • その場で契約しない・印鑑を押さない
  • 相見積もりを取る(最低2社)
  • 契約書と見積書を必ず書面でもらう
  • 訪問販売の契約はクーリング・オフ(8日以内)で解除できる
  • 困ったら消費生活センター(188)へ
★ 制度の内容・金額・期限は災害ごと、市町村ごとに変わります。 ここに書いた金額はあくまで目安です。必ず市町村の窓口で最新の条件を確認してください。 分からない時は「何の制度が使えますか」と聞けば、窓口が案内してくれます。
今日できる、いちばん効くこと
  1. 携帯トイレを15回分買う(1人あたり・3日ぶん)
  2. お薬手帳をスマホで撮る(1分で終わります)
  3. 避難する時はブレーカーを落とすと家族で決めておく
  4. 火災保険に「水災」が付いているか証券を見て確認する
  5. 災害用伝言ダイヤル171を体験利用日に一度試す

出典: 内閣府「防災白書」「避難所運営ガイドライン」/消防庁/厚生労働省/ 国土交通省/各自治体および災害の記録。数値は代表的な災害での報告に基づく概数です。 制度の詳細は災害・自治体ごとに異なるため、必ず市町村の窓口でご確認ください。